長瀬 由美 研究室

キーワード:

中古文学、平安朝文学、和漢比較文学、『源氏物語』、日本漢詩文、『白氏文集』

この研究室・ゼミの教員

ナガセ ユミ

長瀬 由美

NAGASE Yumi

文学部 国文学科 教授

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○ 専門分野
人文・社会 日本文学

○ 学位
東京大学大学院人文社会系研究科日本文化研究専攻博士課程(学位) 博士(文学)

研究を始めたきっかけ

 学生時代、宮沢賢治が好きで国文学科に進学したのですが、そこで『源氏物語』に出会ったのが始まりです。それまでなんとなく敬遠していた『源氏物語』にぐんぐん引きこまれ、若菜巻や御法(みのり)巻では泣きながらページをめくっていました。千年も前の物語になぜこんなに心を動かされるのだろう?──この物語全体を支えている、人間の営みを辛抱強くみつめる眼、そして、複雑で繊細なくまぐまを物語る確かな(すべ)は、どうやって育まれたのか。そうした問いが原点です。

わたしの研究

 『源氏物語』と平安中期の漢詩文を軸に、平安時代文学(=中古文学)を研究しています。平安時代は、〈国風文化〉の時代にあたる中期においても、貴族たちの日常生活の中に漢籍があり、文化の基盤として漢詩文が大きく存在していました。時代の知性のベースが漢籍─儒教経典や歴史書・詩文集─でしたから、女性の作品にも当然漢籍の影響は色濃くあらわれているわけですが、『源氏物語』にはことに深い受容のあとが認められます。平安時代の人々が中国文学をいかに深く受けとめ、そのうえで独自の文学を発展させていったのか。その様相を追っています。

 ゼミでは、古典好きな学生が集まって平安時代の作品について話し合い、それぞれの研究テーマに向き合っています。古典作品は日本語を用いてはいますが、現代とは社会の仕組みも通念も異なるため、深く共感できる部分と、容易には理解できない部分とを併せ持っています。学生の皆さんには、自分の先入観をいったん脇に置き、史料をよく探索して、作品の生まれた時代背景やその時代の価値観を理解したうえで、作品が語ろうとしていること、訴えようとしていることを読み取る力を身につけてほしいと考えています。自分とは異なる思考の脈絡に寄り添い、理解する技術と力は、卒業後もさまざまな場面で活かされるでしょう。

※卒論題目など、詳しくは国文学科オリジナルサイトの「中古文学ゼミ」をご覧ください。

いま興味のあるテーマ

 平安時代、貴族たちにもっとも親しまれたのは中唐白居易の詩文(『白氏文集』)でした。そのため、『源氏物語』や平安朝漢詩文にみられる白居易詩文の受容が、一貫して追い続けているテーマです。加えて最近では、平安時代の思想基盤としての漢文学─唐代学知の受容の問題─について考えています。平安漢学(儒学)は、唐の学問を受けとめ、それを取捨選択しながら独自に展開しましたが、平安貴族が重視した唐代の書物には逸存書(=中国で散佚し日本に伝存する書物)も多く、これから研究が進められるべき領域です。また、『源氏物語』の言葉と漢籍訓読語との関わりについても興味をもっています。