野口哲也 研究室
キーワード:
日本近代文学、泉鏡花
この研究室・ゼミの教員
研究を始めたきっかけ
高校生の頃から日本の文学作品と伝統芸能に関心を持つようになり、大学に入学してからサークル活動で能楽を習ってみました。全国の学生大会で各地の能舞台に立つ発表も楽しんでいたので、当初は卒業論文でも謡曲(能の詞章、台本)を研究してみたいと考えたのですが、難解すぎて歯が立たない気がして断念しました。3年次に近代文学のゼミに入ったものの、やはり古典的で奥行きのある文章に魅力を感じていたことと、出自としても表現としても能楽に縁の深い作家ということで、泉鏡花という作家を研究対象に選びました。装飾過多な言葉の連なりから立ち上がる魔術的な世界に惹かれたような気がします。
わたしの研究室
日本の近代文学を研究していますが、特に関心を持っているのは泉鏡花(1873-1939)の小説・戯曲です。明治時代から昭和の戦前期にかけて活躍した作家で、いわゆるファンタジーとかミステリーというジャンルとは少し違うのですが、しかし幻想的かつ神秘的な表現が魅力の、誰とも似ていない独自の文体を持った不思議な書き手です。人間の社会に対して鋭利な洞察があり、若い頃には新時代の思想を担う作家として注目されながら、後に通俗小説やメロドラマが舞台化されて人気を博したり、美麗な装幀や口絵で彩られた書物が「鏡花本」と称して珍重されるなど、様々な顔を持った魅力的な研究対象です。
ゼミでは明治時代以降の近代文学を幅広く扱いますが、古典文学と同じように表現に即した丁寧な読解を重視しています。学生それぞれの関心に沿った作品がもつ固有の論理や感性を解明することを目的としつつ、知れば知るほど謎が深まっていく言葉の世界を楽しく散策するような議論を楽しんでいます。
いま興味のあるテーマ
文壇の趨勢や文学史における主流からは距離を取ったと見られてきた作家を研究対象にしてきましたが、実態はそのような動向と深く関わって咀嚼しようとした痕跡をテクストに即して見出す作業に興味を持っています。明治維新前後に日本に流入した海外の文学・美術・哲学をめぐる様々な言説がどのように解釈・受容されたかということにも関心があります。その一環として、広義の写実主義(リアリズム)をめぐる潮流についても改めて考えているところです。これまで幻想文学(反リアリズム)が研究テーマだったので、ようやく「半周回った」という辺りに差し掛かったところかもしれません。