このシーズの研究者
研究を始めたきっかけ
人間の本質とは何か、ということへの問いが研究の出発点でした。中学生の頃から古代ギリシアやドイツの哲学書を和訳で読んでいましたが、結局人間の思考というのは身を置いた時代や社会の文脈を離れては存在しえないと気づき、その頃大学の授業で出会った中国の考証学が古典の置かれた環境を包括的に理解しようと試みていることに惹かれて漢文学の世界に入りました。
その中でも特に、四書五経に代表される儒学の経典が絶対的価値をもつものと信じられ、歴代の学者たちが自分の生きる社会環境に合うように解釈に工夫を重ねてゆく過程を面白く感じ、注釈の比較という観点から東洋の思想史を研究しています。
研究概要
四書五経に代表される儒学の経典への解釈が歴史上どう変わっていったのかを研究しています。特に、宋代(960~1279)に中国で家柄主義から能力主義への社会の巨大な転換が起きたことに着目し、その前後の注釈を比較することで当時を生きた人々の人間観・社会観の変化を分析しています。
中国のみならず日本にも現在に至るまで巨大な影響を与えてきた蘇軾や朱熹といった人物の儒学思想が主たる分析の対象です。
蘇軾は文学者や芸術家として著名な人物ですが、その経典への注釈を研究した結果、彼は老荘思想や仏教を儒学と融合させようとする特徴的な思想をもっていること、また、それと同時に、当時の社会のリーダーとして政治の場に応用可能な実用的な儒学の形を模索していたことをこれまで明らかにしてきました。
近年は蘇軾や朱熹の思想の14世紀以降における展開を研究するとともに、そこから派生した研究として、日本における儒学の発展へと対象を広げています。とりわけ諸橋轍次や松崎鶴雄といった近現代の学者の儒学研究や詩文創作に関心をもっており、目下彼らの漢詩文の訳注の作成・公開を進めております。
連携できるポイント
漢文で書かれた資料全般について取り扱い可能です。全国各地域には石碑に代表される膨大な解読・研究の手の及んでいない漢文史料があり、それは地域がもつ文化の豊かさの記憶を秘めています。地域の魅力を再発掘することで、文教・観光方面の事業の発展に寄与します。
提供できるシーズまたは支援できる分野
- 国語科漢文分野の教材開発
- 漢文学に関する講演
- 中国文化に関する講演
産学・地域貢献に関する経験・実例及び連携できる団体
朝日カルチャーセンター立川教室様にて「蘇軾「赤壁の賦」を読む」(令和5年度)を担当させていただきました。