上代文献における神話的言説の研究

分野:

日本文学 文学

このシーズの研究者

オムラ ヒロシ

小村 宏史

OMURA Hiroshi

文学部 国文学科 准教授

研究を始めたきっかけ

なんのひねりも意外性もないこたえになりますが、大学で上代ゼミに所属したこと、ということになるかと思います。生まれが出雲で、幼少期から所謂「日本神話」について触れる機会が多かったので、卒論執筆も容易だろう、と安直に考えてゼミを選んだわけですが、研究というのはそんな簡単なものではありませんでした。先入観に惑わされず、テクストの言語表現に真摯に向き合う姿勢を師から叩き込まれたことが今の礎となっていると思います。

研究概要

神話とは何か? その定義については、先学諸氏が様々に説いていますが、ほぼ外すことなく言及される点があります。それは「神話は現実世界を支え、規定するものである」ということです。昔話が「むかしむかし」の「あるところ」の話として客観化されて語られるのに対して、神話はその享受者にとって道徳・社会秩序・信仰などに直接かかわる力をもつ、より生々しいものであったと言えます。

『古事記』『日本書紀』にみえる神話は、元来古代の民衆の間でそれぞれ独自の発生をし伝承されていたと考えられる群小神話が、政治的要請のもとで体系化されたものとみなされています。こうした神話テキスト(文字化された神話)に向き合う際には、編述者が古層としての神話からなにを取材し、どのような意図をこめて整理・変改・創作していったかをみさだめることが重要になります。

神話は、現実世界の危機や矛盾を契機に呼び出されます。それぞれの神話テキストが見据え、解消することが求められた危機とはなんだったのか、またそれが実際にどんな影響力を持ち得たのか、それらを文脈の検討を通して見定めていくことが当面の研究目標です。

連携できるポイント

上代文学会主催「上代文学会夏季セミナー」という、初学者を対象にした企画において講師をつとめ、研究成果を社会に還元した。

  • 上代文学研究を行う上での基本文献(諸本・校本・注釈書・工具書)およびその使い方について、受講者に実物を参照して貰いながらのワークショップ形式で講義を行った(2016年)。
  • 神話テキストとしての『出雲国風土記』研究の意義や方法についての概説を行った。五風土記の中での特殊性、出雲国造との関係、中央の王権神話との関係などについて、これまでの研究史と今後の展望について講義を行った(2017年)。

提供できるシーズまたは支援できる分野

  • 一般的な後期中等教育レベルの古典文学に関する講義が可能。
  • 古事記、日本書紀、古風土記、万葉集などといった上代文献については、先学の研究成果をふまえた文学研究的視座での講読が可能。

神話というと、研究対象としていかにも浮世離れしたもののように聞こえるかもしれません。ですが、実際には現代社会においても、人が神話的言説を求めることは決して稀ではありません。たとえば、結婚です。手続き上は、役所に婚姻届を出せば、それで結婚は成立するはずです。しかし多くの人々は、結婚にあたって教会や神社に赴き、神秘的・超越的存在の保証のもとで新生活をスタートしようとするのではないでしょうか。危機・不安等々を迎えたとき、理屈を超えた何者かの支えを得ようとする例は、こうした個人レベルだけでなく地域社会や国家といった共同体レベルでも同様にみることができます。

神話的言説の研究について、私は現実のさまざまな事象を読み解く意義を有するものと位置づけています。