子ども期における「逆境」の体験は、発達および精神的健康にいかに影響するか

SDGs:

1 貧困をなくそう 3 すべての人に健康と福祉を 4 質の高い教育をみんなに 10 人や国の不平等をなくそう 16 平和と公正をすべての人に

このシーズの研究者

サトウ ミノリ

佐藤 みのり

SATO Minori

教養学部 学校教育学科 講師

研究を始めたきっかけ

精神科病院に臨床心理士として勤めていたとき、私は「気になる子どもたち」にたくさん出会いました。待合室で心配そうに親の背中をさする子、症状の重い親に代わり服薬の注意事項を懸命に聞く子、入院中の親を見舞うために小さな弟の手を引いて電車を乗り継ぎ来院する子…。

私はこのとき、本来はケアされるべき存在であるはずの子どもが、ケアを提供する側にまわらざるを得ない状況があることを発見しました。そして、このような子どもたちはヤングケアラーとよばれており、日本ではその研究が緒に就いたばかりであることを知りました。

さまざまな事情から複雑な心理的体験をしている子どもたちに対して、どのようなケアとサポートを提供すれば、その心身を健やかに育むことが可能となるのだろう?という疑問が、私の研究の出発点です。

研究概要

貧困や虐待、両親の不和、家族の機能不全、親や子ども自身の障害や疾患など、いわゆる「逆境」を体験することは、子どもの脳・身体・行動に複雑に影響し、健康を害するおそれのある行動や実際のさまざまな疾患の発現に関連することが明らかにされています。一方で、周囲の大人から愛されたり、仲間から受け入れられたり、コミュニティに参加したりするといった、「逆境」の体験の影響を解毒する作用をもつ、「保護的」で「補償的」な体験というものも存在します。

私はこの文脈のなかで、さまざまな事情によって家族のケアを担う子どもたちが、どのようなプロセスを経て精神的健康を損なってしまうのかや、どの道筋を断ち切れば望ましくない結果に至る流れを未然に防ぐことができるのかを検討しています。

ヤングケアラーやきょうだい児、その家族や関係者を対象として、インタビュー調査や質問紙調査などの方法を用いて研究を行っています。

連携できるポイント

子ども・家庭支援は、豊かな社会の創成のために欠くことのできない重要な事項です。家族のケアに関わる子どもたちを対象に実施したインタビュー調査の結果は、発信力の小さな子どもが精いっぱい言葉を振り絞って訴えた重要な生の声を反映しています。また、ケアを担う子どもとその家庭、関係者を対象に実施した大規模で縦断的な質問紙調査の結果は、複雑なメカニズムをより簡潔に可視化・理解することを助けます。

子どもや家庭へのより具体的なケアとサポートを検討するうえで、これらの結果とそこで得られた知見は、「根拠に基づく実践」の展開において、お役に立てると考えます。

提供できるシーズまたは支援できる分野

  • 精神的健康、メンタルヘルスの保持増進に関する啓発活動
  • 子どもの発達や心身の健康に関する講演(ヤングケアラーの講演、虐待や貧困などの逆境体験と保護的体験の講演、子ども期の体験と犯罪や非行との関連の講演、子どもの養育・教育の重要性に関する講演)
  • 子ども・家庭支援プログラムの開発